面会室
今までの恋が恋じゃなくてただ安全圏から妄想を押しつけてただけと分かって、その後初めてする恋(らしきもの)に臆病にならない訳がない。その人のことが一番大切で、会いたいし何なら一緒に住みたいし、それでもこんな本性は知らないでほしい。
親のことすら何も分かっていない。心から愛していて、喜ばせてあげたいと思うのだけれど、何をすれば喜ぶのか全く見当もつかなくて困り果ててしまう。それが苦しいから諦めてしまう、それは怠慢だろうか。
だから彼女に触れるのが怖い。話しかけることはできているけど、たぶん彼女は何も気づいていない。それならそのままでいいかもな、と思う。彼女は私にとっての何?観葉植物でも機械人形でもないけど、ミューズ、それも違う。
ピグマリオンにはなりたくない。彼女はちゃんと泣いて笑って人間をしている、人生とがっぷり四つの組み合いをやっている、同い年の少女だ。なあなあでいなしてきた私から見たら眩しくて仕方ない。外側だけ借りてロボットにしてしまうのは冒涜で強姦だ。アウフヘーベンのような関係でありたい。我儘かな。
それでも守ってあげたい。これは我儘だ。断定する。庇護下に置くというのは彼女を格下に見てるし、それって私が憧れる彼女の光を全部塗り潰しているから。人格全無視でおくるみに包んでしまっている。
出会わない方が幸せだったのかもしれない。それでも最早、私が生きる目的の一つにまでなってしまった。恨めしくさえあるけど、また取り繕って何気なく彼女を見ている。会話する。そして恋をしている。