ちっこいはなし

たのしいせいかつ

死に至らない病

 何もかもが漠然と不安で、でもいつもそれを忘れている。だから揺り戻しがすごい。その拍子に人は自分で死んでしまったりするのだけれど、私は実は当代随一の楽天家なのでそんなことにはならない。
 でもまあ恐ろしい。何故なら私は世間から見たら色々とマイノリティだと思うから。太平洋にヨットで出て行く人はすごい。海図があるとはいえ、だだっ広い塩っ辛い、遮るものが何一つないところへ行くんだもんな。世間の荒波とはよく言ったものだ。話の通じない人が怖い。怒られることが怖い。目を見ることが怖い。表通りが怖い。
 飼い慣らされた犬みたいに、自力で餌をとれない私はどこへ行けるのか。こうなったら新しく翼を生やすしかないな。背中を割る痛みとか、その後の肺の痛みに比べたらきっと大したことはないだろう。不安は足元にまとわりついてじんわりと冷たい。
 人の下にも上にもいたくない。それならひとりでいるしかないよ。目には目を、病には病を。不安を孤独で包んで、オブラートみたいにして呑み込んでしまおう。でも本当の本当は、同じようにひとりで寒い逆風に晒されながら歩いている人と握手したいんだ。